2022/08/25
⬆️行った
植物画家のルドゥーテが描いたバラ図譜の展示
植物を専門に描くひとでしかも媒体が図鑑だから、見たままをそっくりそのまま写実的に描く技術が要求されるのは容易に想像が付くし実際そうだったんだけど、同時に「コイツ仕事で植物を描いてるという以前にまずかなりの植物オタクだな...?」っていうのが見え隠れしてるように思えて
いやそもそも好きじゃなきゃそんな道選ばないだろうけど、図鑑というある程度あるがままを載せなきゃいけないもののために描いてはいても その中に彼のバラへの愛情というか慈愛の目線みたいなものが感じ取れたんだけど いかがすか
昔ってまだ写真の技術が進んでないから発展途上の画質の悪い白黒写真を人工着色でもして載せるよりは全部イチから俺が描いてやらぁっていうの 現代じゃ無い発想だし不自由な時代だからこそ生まれたゲイジュツというカンジ
モノが無い分を工夫で補おうとするし、それに時間とエネルギーを注ぐだけのバイタリティもビンビン伝わった
まるで写真みたいな絵を描くひとって今もいるけど、それに対して「写真でいいじゃん」って言うナンセンスな奴は一定数いる。でもその「写真でいいじゃん」の"写真"が満足できるほどの技術に達してない時代だから「写実的に描けるひとが手描きで頑張る」のは一つの理にかなった方法だったし芸術としても受け入れられたんかなって
ルドゥーテの植物画は精密すぎて「アートとしてだけじゃなく植物学の面でも評価されている」って言われてるくらい写実的(ヤバ)だとはいえ、その上で同時に繊細でふわふわで品のある自分のタッチもあるから、写真でいいじゃんじゃなくあくまでルドゥーテというアーティストによる唯一無二の絵画として成り立ってるのもすごい
同じ規格の用紙に一輪のバラが中央に配置されてるっつー言わば同じモチーフ同じ構図同じタッチの絵がズラーッとあるわけだけど、これずっと同じ熱量で何枚も描き続けられるのシンプルにすごい。ふつー飽きひん?
モチーフも構図も全く同じ縛りプレイをし続けるの 仕事とはいえ相当バラ好きじゃないとやってられないよと思う
こんなコンセプチュアルなもの他に無いよ 図鑑ってコンセプチュアルだよ
というか白紙に一輪だけって構図だけなのに余裕で戦えてる感 バラって種類によって色や形状が全く違うから見続けても変わり映えあって飽きがこないの、それだけバラってモチーフとして華やかだし バラのポテンシャルすげ〜〜〜
花びら自体既にlook likeフリルとかドレープだし、フランスの貴族が好んで紋章にしたとかドレスの意匠に取り入れたとか超わかる
いつの時代に誰が見ても個人差無く華やかさの象徴として映るの不変的すぎ
そこにあるバラを見たままに描いてるのが前提なわけだけど、だからこそ絵を通して実際のバラについて気付くこともあった。
例えば絵を見てて 棘の部分って黒とか深い紫の色を使ってたりかなり大きく尖ってたり 本当に毒々しく描かれてあって、こんなんファンタジーの魔女の家に生えてるヤツまんまじゃんと思ったんだけども
図鑑なんだからそのバラは実際ここまで毒々しい棘を持っているはずであって、アートとしての誇張じゃなくてこれって 自然ヤバいなと思った。それこそ眠り姫の呪いが茨なのも、魔性の女に対してバラがモチーフとして使われるのも、美しいバラには棘があるって言われるのも、人の勝手に付与したバラのイメージじゃなくて「こんなの目の前にしたら必然的にそういう創作をしたくなるよみんな」って納得できる
バラの持つ華やかさが孕む闇みたいなものって決してファンタジーじゃないよ
美術館側の作品解説ももうアートとしてじゃなく花の種類についての説明になってんのちょっとウケた。もう美術館自体がバカデカ図鑑。「ルドゥーテはこの珍しい花の色を再現するために絵の具にインクを混ぜる工夫をした」みたいな説明より「このバラはあの種類とあの種類を交配させて出来て云々」みたいな植物学的な知識のほうが圧倒的に多くて、アーティストのことを知りに来たのにバラに詳しくなって帰るっていう
あのオタクいつもすげー作品について語ってくれるけど自分のこと全然話さないからどこに住んでて何歳で何の仕事してるとか未だに知らないんだよね と同じカンジ
そのくらいバラそのものをそのまま描いてるってことよな、茎の産毛一本一本を細か~く描いてんのとか下手な写真より解像度高いよ あたしマサイ族とかの視力良いひとの目って4kテレビより画質良いと思う
でもそれでいて 遠くにあるものは主要部を邪魔しないようにちょっと影を潜めてる感じで薄く描いてあったり 自由自在なポートレート機能よな。こういうの当時のカメラじゃ出来なかっただろうし絵だからこそのメリットだと思う iPhoneのポートレートも使いこなせないもんあたし よく「アッそこまでぼかさないでぼかさないで」ってなります
さっきも書いたルドゥーテ植物オタクかも疑惑は見進めてくうちにだんだん確信になっていくところがあり
例えば奇形のバラというのがあるらしく これは突然変異で花弁の中心から葉が出てきてそのまま育っちゃうっていう偶然の産物らしいんだけども、これを当時の愛好家が好んでたらしい。完璧な形を追い求めるだけじゃなく思い通りにならない自然ならではのサプライズがうれしいっつー愛好家心理は分かる気がするが 見てた限りこの奇形のバラをルドゥーテは結構描いてんのね
これ地味にやばない?図鑑っていう形式上そのバラの一番基本的な姿を描くのが良いとされるだろうに、そんなレア形状をあえて普通のと紛らわせて描いとくって...オタクくんさぁ...。性癖隠しきれてませんけど大丈夫そ???になる。てか『奇形を好んで描く』ってもうそれはこじらせ厄介オタクだよ。「デュフフ...にわかには分からんだろうがツウにはこれがたまんないんでヤンス」じゃねえんだよ
でもだからこそそのガチオタルドゥーテくん的にそのバラにとって一番綺麗なものをチョイスして描いてるんだろうし これってかなり贅沢なことなのでゎ?植物園で「ここに生えてるの一種類ごとに一番綺麗なのを選んで持ってきてくれ^^」なんて王様みたいなことできるわけないし。でもこのバラ図譜はそれが叶ってるわけ
人間でいうミスユニバース決勝の世界大会だよ 各国でも選りすぐりの一番綺麗なひとが集まってるから「あぁ~どの国もみんな個性あっていいすね~」って眺めてる客になれる
自分が行った時間は美術館が設けた親子タイム的なやつで 多分ちびっこ優先に入れて「静かに見たいのに子供がうるさい」って言うような大人はまたあとでにしてねの時間帯だったから 夏休みもクライマックスの小学生がゾロゾロいたんだけど
子供ってやっぱすごいね 展示を見て「絵うっま!!!」って言うのね あの、美術館まで来てわざわざ声に出して言う感想が「絵がうまい」って...いやぁなかなか無いよな 大前提とはいえ一番の真理だよ あんた天才?
周りの親子も「わ~かわいい色のお花だね~」「これコスモスみたいだね~」「○○ちゃんはこのバラがすき!ママは?」「ママはね~」とか もうルドゥーテの絵としての感想じゃなく花の感想なの ここが美術館じゃなく植物園だったとしても成り立つ会話してて そのくらいあるがままを描いてんだなとなった
オタクを隠して擬態してパンピー受けするものを提供してるけど、でも見る奴が見れば「奇形のバラを描くなんて...こいつ同類か?」ってツワモノにもなるルドゥーテくん ポップなキャラでちびっこ人気のあるさかなクンだけどあの人マジで研究者としてすごいらしいよみたいな
「これのここがイイ!」「あれが描きたい!」「とにかく好き!」っていうエネルギーが原動力になってこれを完成させたんかなってのを感じて良かった
一生懸命何かに取り組んでるひとってジャンル関係なくアツくて素敵だし
全オタクくんのそういうところ好きだぜ チュッ